2019/02/26

鈴木亘著「経済学者、日本の最貧困地域に挑む」を読んだ

鈴木亘著「経済学者、日本の最貧困地域に挑む ーあいりん改革 3年8ヵ月の全記録」を読みました。
鈴木先生は、社会福祉を専門とする学習院大学の経済学者だそうです。

鈴木先生の本を読んだのはこれが初めてなのですが、タイトルを見てなんとなく興味が湧き、読んでみました。

大阪市内、JR新今宮駅近くに「あいりん地区」というエリアがあります。
1泊1000円台の簡易な宿所、日本最大規模の寄せ場(日雇い労働の紹介所のようなもの)があり、ホームレス向けに炊き出しが毎日行われる。

この本は、そんなあいりん地区がある大阪市西成区において、当時の市長・橋下徹さんからの依頼を受け、西成特区構想の特別顧問を務めることになった鈴木先生による、あいりん地区の現状と西成特区構想の具体施策の実行プロセスが語られた本です。

鈴木先生はあくまで経済学者として、経済学の見地から西成区に何をどこまでするべきかを考える。例えば、
・ホームレスが増え続けることで、公園や道路などの公共財を他の住民が使えないなどの外部不経済が発生するよね→外部性の解消をしよう
・メディアの偏向報道により西成区はイメージが悪く、またそれにより優秀な学生が外部の学校に進学するなどの逆選択が発生→統計的差別により負のスパイラルが起こるよね→スーパースクールなどの設立により優秀な学生が集まるなどのシグナリングを生み出せばよいのでは?
・大きな改革は行政の部局横断で進めることになるが、部局横断の調整業務は言わば公共財なので、フリーライド問題が発生し、結局そんな改革が進まない…→組織再編は時間もコストもかかるから、特別顧問のような立場が全体を見るほうがよい
など。

その一方で、地域住民との合意形成が大事であり、いかに地域を巻き込むか?だとか、社会活動家や、国・府・市・区、その中の部局といった様々な利害関係を持つ行政を動かすための動機設計など、実行(Execution)に重きを置いて動くその経緯が細かく語られていて、「まち」を変える・動かすには「きめ細やかな泥くささ」が必要なんやなーと感じたし、これをやってのけた鈴木先生の情熱と行動力に尊敬の念を抱かざるを得ませんでした。

本のなかに、竹中平蔵さんの言葉を借りて、「センターピンを探せ」という表現が何度か出てきていて、
・課題を構造的に整理し、何に取り組むことでゴールに向けて大きく前進できるかを考えること
・ただ、それだけでは、たとえ、打ち手を打っても何も変わらず、打ち手により生み出される結果の連鎖が確実に連鎖するために、ステークホルダーの洗い出しと利害関係を正しく把握し、合意形成を図ること(そして時には理想と異なる落とし所を探ることも重要)
ということが、まさに「センターピンを探せ」ということなのかな、と思いました。

個人的にも、経済学者が難しい社会課題に対し、「中の人」として取り組んでいる事例が載っている本って意外と読んだことがなく、実践的な経済学本としてもかなり面白かったです。

橋下市長退任後、鈴木先生も特別顧問を離任されたそうですが、その後も改革は少しずつ進んでいるようで、どこかのタイミングで西成区へ遊びに行ってみようと思います。
また、鈴木先生は最近「待機児童問題」にも取り組んでいるそうで、その取組みも書籍化されています。こちらも読んでみてまた感想書こうかな。




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